
ズレた人が、なぜか重なる夜
話を聞かないで、自分の話ばかりしてしまう新人。
空気を読まないわけじゃないけど、会話のキャッチボールが少しズレている。
分かる。
最初は誰だってそうだ。
次についたフリーも、なんだか噛み合わない。
こちらが話を振っても、返ってくるのは自分の武勇伝ばかり。
そして、追い打ちみたいについたのが
「俺に合わせろ」系の太客だった。
今日は、そういう人が重なる夜らしい。
分かろうとして、疲れていく
モカは、なるべく相手を理解しようとするタイプだ。
新人には丁寧に説明するし、
フリーにも話題を合わせる。
太客には、失礼がないように気を張る。
でも、その夜は少し違った。
どれだけ言葉を選んでも、
どれだけ空気を読んでも、
何かがズレたまま、噛み合わない。
「私の言い方が悪いのかな」
「もう少し、歩み寄った方がいいのかな」
そんなことを考え始めた時点で、
もう少し疲れている証拠だった。
話が出来すぎているフリー
そのフリー客は、こんな話をしてきた。
他の店では、指名している子に高いシャンパンを入れた。
一緒に旅行にも行った。
有名な子で、指名すれば箔がつく。
だから――
「君も、欲しければもっと頑張ってアピールした方がいいよ」
そう言いながら、
この席ではまだドリンク1杯も出ていない。
話はいつも立派なのに、
具体的な話になると、なぜか曖昧だ。
真偽は分からない。
でも、どこか出来すぎている。
モカは、その瞬間に気づいた。
「あ、考えるのやめよ」
この人を分かろうとするのを、やめよう。
嘘か本当かを考えるのも、
張り合うのも、
期待するのも、やめよう。
相手を変えようとしている時点で、
こちらが疲れるだけだ。
そう思ったら、
ふっと肩の力が抜けた。
理解しない、という選択
人は、基本的に変わらない。
自分の基準で他人を測ろうとすると、
どこかで無理が出る。
だったら、
分かろうとしない方がいい人もいる。
それは冷たさじゃない。
自分を守るための判断だ。
モカは、その夜から
「理解しようとしない」ことを覚えた。
夜が、少し楽になる
全員に好かれなくていい。
全員を分かる必要もない。
仕事として距離を取る。
感情を使いすぎない。
それだけで、夜は少し楽になる。
水商売は、
誰かを変える仕事じゃない。
自分を壊さずに、
続けていく仕事だ。


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