
その夜、ララは指名が被っていた。
ひとつは、上客。
普段なら、シャンパンが動く人。
もうひとつは、
単価は高くない、いつもの常連。
黒服が言った。
「ララ、上客の方いける?」
ララは、
その人を一度見ただけで、首を振った。
「今日は、そっち軽くでいい」
理由は言わない。
上客は、
お連れ様と来ていた。
スーツ。
名刺。
仕事の話。
グラスの減りは遅く、
場は終始、静か。
ララは思う。
――今日は、出ない。
この人が悪いわけじゃない。
むしろ、ちゃんとした日。
でも今日は、
派手に飲む日じゃない。
ララが選んだのは、
単価が低めの、もう一人の常連だった。
一人。
仕事終わり。
疲れた顔。
ララは、
盛り上げようとしなかった。
「今日、長かったでしょ」
それだけ。
その人は、
少し間を置いて、頷いた。
その夜、
シャンパンは一本も出なかった。
上客の席も、
静かに終わった。
帰り際、
上客は何も言わずに帰った。
ただ、
来たときより、表情が柔らかかった。
もう一人の常連は、
席を立つとき、ぽつりと言った。
「今日は、助かったわ」
誰に向けた言葉でもない。
ララは、
“単価の高い人”を優先しない。
“今日は、何を求めて来ているか”を優先する。
シャンパンが出ないと分かっている夜でも、
満足が残ることがある。
それを外さないから、
彼女はトップにいる。


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