【トップキャスト・ララ物語①】トップキャストが黙って引いた夜

ある夜の分岐点

その夜、ララは指名が被っていた。

ひとつは、上客
普段なら、シャンパンが動く人。

もうひとつは、
単価は高くない、いつもの常連。

黒服が言った。

「ララ、上客の方いける?」

ララは、
その人を一度見ただけで、首を振った。

「今日は、そっち軽くでいい」

理由は言わない。


上客は、
お連れ様と来ていた。

スーツ。
名刺。
仕事の話。

グラスの減りは遅く、
場は終始、静か。

ララは思う。

――今日は、出ない。

この人が悪いわけじゃない。
むしろ、ちゃんとした日。

でも今日は、
派手に飲む日じゃない。


ララが選んだのは、
単価が低めの、もう一人の常連だった。

一人。
仕事終わり。
疲れた顔。

ララは、
盛り上げようとしなかった。

「今日、長かったでしょ」

それだけ。

その人は、
少し間を置いて、頷いた。


その夜、
シャンパンは一本も出なかった。

上客の席も、
静かに終わった。

帰り際、
上客は何も言わずに帰った。

ただ、
来たときより、表情が柔らかかった。


もう一人の常連は、
席を立つとき、ぽつりと言った。

「今日は、助かったわ」

誰に向けた言葉でもない。


ララは、
“単価の高い人”を優先しない。

“今日は、何を求めて来ているか”を優先する。

シャンパンが出ないと分かっている夜でも、
満足が残ることがある。

それを外さないから、
彼女はトップにいる。

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