【中堅キャスト・モカ物語①】常連が審査員になる夜

ある夜の分岐点

その常連さんは、付き合いが長い。

普段は一人で来ることが多く、
席につくと決まってこう言う。

「今日は誰でもいいよ」
「空いてる子で大丈夫」

本当に、気を使わなくていい人だった。
だからいつの間にか、
“楽な常連”という認識が、店側にも自然とできていた。

——でも、それは一人で来る時の話だ。


お連れ様と来る日は、別人になる

その日は、入口に立った瞬間から違った。

横に、お連れ様がいる。
それだけで、空気が変わる。

席についても、
あの「何でもいいよ」は出てこない。

口数は少ない。
でも、視線だけがフロアを一通りなぞっている。

誰が付くか。
お連れ様が楽しんでいるか。
場の雰囲気はちゃんと回っているか。

言葉はない。
でも、気遣いだけがはっきり見える。

その瞬間、私は気づいた。

あ、この人——
今日は客じゃない

今日は、
お連れ様を連れてきた側の人間だ。

そして同時に、
この夜の“審査員”だ。


黒服も、その空気に気づいていた

黒服も、分かっていた。

無理に盛り上げに来ない。
過剰なトークもしない。

その代わり、
付け回しとオペレーションに全振りする。

どの席が今ベストか。
誰を付けたら、お連れ様が一番楽しめるか。
抜き差しのタイミングは合っているか。

接客はほどほど。
裏側は全力。

「評価されに行く」動きじゃない。
でも、評価される動きだった。


結果は、分かりやすく出た

お連れ様は、明らかに楽しんでいた。

笑っている。
質問している。
グラスの減りも早い。

「この子、いいですね」
「また来たいな」

その夜のうちに、
ちゃんと“好みの子”も見つかった。

数日後。

そのお連れ様は、
一人で来て、その子を指名していた。

あの夜、
無理に売ろうとしなかったからこそ。

いつもの常連だからと、
雑に扱わなかったからこそ。

常連も、黒服も、
ちゃんと仕事をした夜だった。


仕事ができる人は、空気で採点する

お連れ様と来る常連は、
口には出さない。

でもその分、
空気を見て、
人を見て、
店を見ている。

気づかないと、外す。
気づけたら、次につながる。

その違いは、
ほんの一瞬の“違和感”だけだ。

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